平成14年度 地域連携事業講演会 第4回

公開日 2002年09月07日

報告:「病診連携Wの会」講演会
徳島県立中央病院地域医療連携事業

平成14年度第4回講演会

平成14年9月7日、徳島県医師会館において、県立中央病院主催(県医師会、12郡市医師会後援)で標記講演会を開催したところ、院内外より約140名の参加があった。「病診連携Wの会・開業医側からの考察」:中村眞巳先生(中村胃腸科内科医院院長)、「病診連携Wの会・病院側からの考察」:山室渡先生(済生会神奈川県病院副院長)に特別講演いただいた。引き続き「病診連携を語る」をテーマに、当院の坂東弘康呼吸器科医長の司会で、2人の講師先生、医師会から桜井えつ先生(住友医院)、岡部達彦先生(岡部内科クリニック)、田中治先生(田中医院)、そして当院から住友正幸外科医長を加え、会場も一体となった活発な討議がなされた。その概要について報告する。

「病診連携Wの会」世話人代表、中村眞巳先生は、昭和34年東京大学医学部卒業、東大沖中内科入局、昭和47年に開業されている。約10年来の「病診連携Wの会」の代表としての御経験をもとに、御講演いただいた。病診連携の考え方は、総論では基本的にはほぼ完成されてきたが、各論的には患者さん・病院・開業医のそれぞれの多彩性により連携の形態はなお未完成であった。その後、患者意識(特に権利)の変化(医療事故や医療訴訟など)や医療技術の進歩、医療行政・保険・経済などの経営上の問題、ほかに医療機関の生き残りの問題などが、病診連携の変遷に影響を与えた。自己完結型医療から地域完結型医療への転換時期において、今まさに病診連携は重要である。
紹介された患者さんを病院が抱え込むということは、もってのほかである。患者さんを病院側がもとの開業医に返さないという評判がたてば、もうその病院へは紹介をしなくなる。逆紹介をしない場合においても、その理由をきちんと説明すべきである。

横浜市人口340万人、うち神奈川区20万人を背景にした、病診連携Wの会(開業医54名、平均年令45才(神奈川区医師会開業医は168名、平均年令58才))と、済生会神奈川県病院(病床400床、1日外来1200名)との病診連携を紹介する。

 

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平成4年、紹介医師同士が直接顔の見える関係をつくることを目的に、神奈川区の診療所と済生会神奈川県病院の有志の集い(若手WAKATE医師の会)が発足した。当時は患者さんの紹介にも苦労しており、出身大学の関係でお願いしたりする等、紹介先をさがすだけで大変であった時代である。会発足後、紹介状返事や病状報告の徹底や逆紹介の促進などがなされたが、様々な問題点もあった。患者さんを中心とした病診連携を考え、病院医師と開業医が話し合いを重ね、顔の見える関係を築いていくうちに、お互いの信頼関係が生まれ、現在にいたっている。
その後、かつての「WAKATEの会」から「double docter」としての「Wの会」に発展した。病院からは各科責任者1名、看護師ほかが参加、開業医側は、活動に積極的な会員のみが参加している。現在、Wの会は、病診連携のシンクタンクとしての組織化を推進しており、広く組織の開放を行い、開発の場としての総会や世話人会、そしてその実行の場としての日常診療や分科会がある。全体会議においては、病院・開業医それぞれから演題発表や学術講演が行われ、そして懇親会は顔の見える関係づくりに貢献している。決して医師会とWの会は対立するものではない任意団体である。
さらによりよい病診連携を進めるためには、コメディカルを含めた全ての構成員が病診連携の意味を理解し、信頼しあうことが重要である。病診連携とは、患者さんを医師同士で紹介しあうだけで終わるものではなく、そこから始まるのである。紹介した患者さんがいかに満足し、納得した医療を受けられるかが課題である。患者さんからの診療所への評価(付加価値)としては、診療所の技術の評価、良い病院や専門医への紹介、受けた診療内容の満足度などがある。 そして、総会や演題発表・学術講演の後の、懇親会は非常に重要な役割を果たす。当事者同士の親交を深め、お互いの理解度の確認をする場にもなり、「顔の見える病診連携」の実践の場となる。医師同士だけの飲み会はともすれば、馴れ合いの会に見られがちであるが、コメディカルも参加することにより、真剣な討論もなされることにもつながる。
「顔の見える病診連携」としてのWの会は、当事者同士の理解と信頼の形成、患者さん中心の連携の形成、当事者の専門や得意・不得意分野の把握、さらには直接必要な豊富な情報量の共有などができる。もしも、病院で紹介患者さんに問題が発生した時には早期に紹介元に連絡し、解決につなげることもできる。そして何より患者さんの安心感も増すことになる。
病診連携の意義は、患者さんにとっては、信頼できる「かかりつけ医」とともに、外来・入院・退院後・高度医療を確保できることになる。開業医にとっては、入院ベッドの確保と逆紹介による退院患者さんの受け入れなどにより患者さんを確保できること、高度医療機器の共同利用や病院若手医師との交流等により高度先端医療にも接することができること、そして、ダブルチェックによる医療事故・医療訴訟の予防や対応などがある。また病院にとっては、地域中核病院としての基本理念の確立と職員への浸透、高度医療機関としてレベルの高い紹介病院の役割を果たすこと、逆紹介の受け皿としての「かかりつけ医」の確保があげられる。
そして済生会神奈川県病院の病診連携への取り組みも熱心で、具体的には、Wの会の活動とともに、平成6年に空床管理室・病診連携室の設置、逆紹介の推進、夏休み・年末年始の開業医からの患者応需登録の実施などから始まり、20%程度であった紹介率も12年度からは40%を超えるようになった。平成12年度には疾患別病診連携グループ(分科会)も発足し、活発に連携活動がなされている。
病診連携の目的は、1人の名医があらゆる疾患を診る時代から、地域完結型医療システムの構築により、医療レベルの確保、医療資源の有効利用等があげられる。「病診連携Wの会」としての今後の目標は、医療環境の変革にも耐えられるシステム構築のためのシンクタンクとしての役割を果たしていくことである。
医療保険制度の変革により、病院にとっては機能分化が促進され、保険者の条件を満たした病院は急性期病院や地域中核病院となるが、それ以外の病院は違う選択肢を選ばねばならなくなる。開業医にとっては、診療情報提供料のみしか与えられておらず、直接のメリットは少ない。しかし、患者さんの信頼を得られることは大きな支えである。
今後、医療人として広く関係者が納得する医療の交流を完成すれば、これまでの医療制度の単なる受け皿から、将来は医療制度の理想を求めていくための発信基地となりうる可能性があると考える。
山室先生は、昭和53年東邦大学医学部卒業、平成5年同大学第2内科講師、平成6年に済生会神奈川県病院内科部長、平11年より副院長就任、病診連携Wの会の病院側の世話人として、現在に至られている。済生会神奈川県病院は、横浜駅の約5km北にあり、神奈川区(人口20万人)や鶴見区が主な診療圏で、病床400床、1日平均入院患者397人、1日平均外来患者1169人、平均在院日数16.9日、病床利用率99.2%、紹介率40.3%、常勤医師70人である(平成13年度)。14年度には、平均在院日数14.5日、紹介率は45%を超えている。救急部も活発であり、救急車は年間約6000台来ており、これも紹介率に大きく貢献している。
目標とする医療連携とは、地域住民に、良質な地域集結型の医療システムを提供することにある。連携の中心には「患者様」がいて、連携により地域のどこで受診しようが質の高い標準化された医療を受けられるシステムを構築することにある。また病院職員にとっての医療連携は、各々の職域で、地域の中核病院の一員として、地域における役割や関わりを認識することにある。
現在の病診連携チャンネルは、公的チャンネルとして区医師会との勉強会等があり、私的チャンネルとして「病診連携Wの会」(年に計10回)があり、それぞれ大事な役割を担っている。Wの会は、平成4年に誕生し、年に2回の総会を開き、平成14年7月には第22回を開催した。有志の診療所医師54名と済生会神奈川県病院の医師やコメディカル、事務とともに、地域における理想的な医療システムを構築するためのシンクタンク・水先案内として位置付けている。Wの会への病院としての取組みは、平成4年外科、平成7年内科が加わり、その後全科から最低1名が出席し、コメディカル各部門、事務からも加わり、あくまでも有志の会であるが、全病院的な取組みを行っている。
病診連携Wの会の位置付けとしていくつかを列挙する。患者様の行き来があった開業医師と直接会って話をする。病院医師を紹介する。診療所側のナマのニーズを知る。地域中核病院としての認識・地域からの評価の確立、病院経営の立場からは紹介率の向上・逆紹介の円滑化・在院日数の短縮、病院医師の専門性を伸ばす、医師以外の職員も病診連携の現場を体験し地域単位における連携の意義・自分達の役割を認識する、などがあげられる。
病診連携の発展の機序としては、1)入院紹介(空床管理、救急入院など)、2)外来紹介(病院医師の紹介、専門外来を増やす、紹介元へ返すなど)、3)逆紹介(診療所医師を知る、患者様に理解していただく等)、4)在宅医療との連携(救急対応、患者登録、逆紹介、在宅医療への退院)、5)W(ダブル)主治医(医療の標準化:疾患別プロトコール、疾患別診療グループ、学術的交流)ということがあげられる。逆紹介については、済生会病院としては様々な理由からかかりつけ医を勧めるようにしている。横浜市統一の患者紹介状もある。
逆紹介を阻む問題点としては、いざという時のために通院している人、予約制のため待ち時間がそれほど長くない、どの診療所(医師)が良いのかわからない、大病院指向、逆紹介は主治医から見放される感じがするといったことがある。解決法としては、診療所と済生会の連携を具体的な形で示す必要がある。公的・私的な病診連携組織やシステム、疾患毎の病診連携、ホームページ、パンフレット、ドクターマップ、病診連携手帳などを利用することがあげられる。医師同士がお互いに信頼し、顔の見える病診連携が必要になる。
また、かかりつけ医師(開業医師ら)の行う在宅医療との連携は、例えば特に救急対応を推進することにより、様々な危惧がされたが、実際のデータからは平均在院日数の短縮や病床利用率に悪影響を与えていないようである。 疾患毎の病診連携ということと、勤務医においては専門疾患を多く診たい、地域のその疾患を把握したいということが合致する。たとえば、かかりつけ医からの紹介患者様については、即日内視鏡を実施するシステムがあったり、疾患別のプロトコールもあり、消化性潰瘍の際、出血例では止血後入院となるが、非出血例は紹介元で共通のプロトコールで治療(処方等)をしてもらうということになる。
Wの会においては、肝炎、糖尿病、在宅医療、高血圧、胃腸疾患などの分科会が活発に活動している。なかでも、山室副院長が主に主宰している「肝炎治療ネットワーク」について具体的な活動内容について詳細な紹介があった。済生会病院の消化器科専門医とかかりつけ医とで「分科会」をもち、勉強会や症例検討会等を行い、実際に紹介された肝臓病の患者様については、病院の専門医が入院診療にあたり、退院して外来になる時には、かかりつけ医に逆紹介して、同じプロトコールでの治療を引き続き行っている。そして定期検査の際に、病院へ再度紹介してもらい、その検査をもとにかかりつけ医に治療の継続を依頼するという形をとっている。
病院側からみた今後の目標は、健全な経営、専門医としての飛躍、地域の中核病院の職員である誇りを持って地域へ貢献する、そして地域からの評価をうけるということがある。その結果、様々な疾患に対応できる医療システムの構築し、良質な医療連携を通じて地域の健康度を向上させるということにつながっていくと考える。
中村先生の御講演とともに、以上の山室先生の御講演からは、「病診連携Wの会」にはさらなる期待と希望があふれており、私達にもその具体的な指標と希望を示して下さいました。はっきりと学ぶものが多く、即実践できる(というよりしなければならない)内容も数多くあった。

 

続くディスカッションの一部をQ&A方式で掲載する

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Q1. 開業医としては、患者様に継続した医療を提供したいと考えている。ぶつ切り医療になっている実状もある。特に末期癌患者さんについてどうされているか?
A. 山室先生:在宅医療をしている開業医との連携を円滑に進めている。

Q2. 徳島では医師会に対して若い医師からの意見が少ない状況がある。Wの会発足時の経過等も含めて御提言を。
A. 中村先生:Wの会が成功した秘訣は世話人は聞き役に徹することで、若手にはもともと「医師会に対して不満があった」「その不満をとにかく聞いてくれる。自分の意見が言える会にしたのが成功した鍵であった」。もう一点は患者様のためにも良好な(顔の見える)病診連携を築くためにも、開業医側は日々是勉強で自己研鑚につとめる必要がある。

Q.3 公的病院においてもこのような連携をしていくためには?
A. 山室先生:病院の経営のために必要だと言うと、勤務医は必ずそっぽを向く。地域完結型医療を目指すという理念のもと、患者様を中心にした努力。地域の先生方にも専門医として認知してもらう努力も必要。

Q.4 病院によっては紹介した患者さんを、入院治療終了後にも抱え込んでしまい、もとの開業医へ返してくれないことがある。これでは病診連携ではない。済生会病院ではこのような医師にはどうしているのか。
A. 山室先生:現在の診療報酬上からも、病院がずっと抱え込むのは得策ではない。実際には一般外来は減らす方向であり、特殊な疾患でない限り、当院ではそのようなことはあり得ない。

*ご案内:「病診連携Wの会」ホームページ:http://www.wdoc.gr.jp/

徳島県立中央病院では、今年1月より登録医からの事前のファックス紹介患者様については、初診再診問わず診療日時の予約をできるようにし、最近では毎月100件以上の利用がある。紹介患者様については、正面玄関に専用の受付を置き、各診療科まで案内もしており、患者様からは好評を得ている。その他、マンスリーファックスの発行(各診療科紹介など)、今年度は4回の講演会開催を含めて、各種地域医療連携事業に積極的に取り組んでいるところだが、さらに病診連携Wの会のキーワードである「顔の見える病診連携」推進支援に取り組んでいきたい。

(地域医療支援センター電子メール:chiiki@tph.gr.jp も御利用下さい。)