肺がん

肺がんの概要と内科的療法について

肺がんとは

声帯から末梢にある気管、気管支、細気管支、肺胞の上皮から発生した悪性腫瘍を「原発性肺がん」あるいは単に「肺がん」といい、他の内臓に発生した悪性腫瘍が肺に転移したものは、「転移性肺腫瘍」または「転移性肺がん」といいます。

肺がんは日本人におけるがん死因の第一位であり、高齢化に伴い今後さらなる増加が予想されています。

タバコによる肺がんの死亡リスク

肺がんの危険因子

肺がんの危険因子としては、喫煙、慢性閉塞性肺疾患、アスベストなどの吸入曝露、肺がんの既往歴や家族歴、年齢、肺結核などが挙げられます。

タバコには多くの発癌物質や有害化学物質が含まれており、DNAの損傷などから肺がんの発症に強く関与していることがわかっています。一方、早期に禁煙することで肺がんの死亡リスクを低下させることもわかっています。

 

肺がんの組織分類

肺がんの種類

肺がんは多彩であり、顕微鏡での見え方(組織型)によって分類されますが、予後や治療反応性から小細胞がんと非小細胞がんの2つに大別されます。

小細胞がんは、肺がんの10-15%を占め、非小細胞肺がんと比較して増殖が速く、リンパ節や脳・骨・肝臓など他の内臓に転移しやすいといった特徴があります。

非小細胞肺がんは、小細胞肺がん以外の肺がんの総称で、頻度の高いものとして「腺がん」、「扁平上皮がん」、「大細胞がん」の三つが挙げられます。

喫煙者と非喫煙者における発癌形式の違いも指摘されております。喫煙者の肺がんでは、タバコに含まれる発がん物質の影響により、がんの発生に関わる複数の遺伝子に損傷が起こり発がんすると考えられ(多段階発がん説)、組織型としては小細胞肺がん、扁平上皮がんを多く認めます。

非喫煙者でも肺がんを発症しますが、腺がんが多く、がん細胞において発がんに強く関与する遺伝子の一つに異常を認めることがあります。この場合、この異常な遺伝子を標的とした治療薬が著効することがあります。

 

肺がんの診断

肺がんの診断

胸部X線やCTなどの画像検査で肺がんが疑われた場合は、病変部位から組織または細胞を採取し診断を行います。組織採取の方法として、気管支内視鏡検査、CTガイド下経皮肺生検、胸腔鏡検査、開胸肺生検などがありますが、合併症や侵襲性などを考慮し、気管支鏡検査が最も多く行われています。

従来の気管支鏡検査では、X線透視を用いて肺病変の位置を確認し組織採取を繰り返していましたが、X線では病変が不明瞭なことがあり、出血のため繰り返しの組織採取が困難な場合もありました。当院ではX線透視 と超音波を用いて病変部位を特定し、シースといわれる管を留置し、そのシースを通じて繰り返し組織を採取する「ガイドシース併用気管支腔内超音波断層法」をほぼ全例に取り入れております。これにより診断率の向上や検査時間の短縮など、患者さんの負担軽減につなげております。

また、これまで外科手技でのみ到達可能であった気管・気管支周囲の病変に対して、超音波によるリアルタイムの画像を観察しながら吸引生検を行う「超音波気管支鏡下穿刺吸引針生検法」も行っており、低侵襲かつ確実な診断を目指しています。

 

肺がんの治療

肺がんの治療法としては、手術療法、放射線療法、薬物療法がありますが、腫瘍の大きさや周囲臓器への広がり、所属リンパ節への転移や他の臓器への転移の有無より腫瘍の進行度(臨床病期)を判断し、組織型や年齢、全身状態を考慮して治療法を選択します。

手術や根治的放射線照射が困難である進行期の非小細胞肺がんの場合、殺細胞性抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法が選択されます。殺細胞性抗がん剤は、細胞増殖に関わるDNA合成や細胞分裂を阻害し抗腫瘍効果を示すものであり、一般的な副作用としては、食欲不振・吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状、白血球減少による抵抗力の低下、脱毛、全身倦怠感などがあります。その他、がんの発生、増殖、転移にかかわる特定の分子をターゲットにした「分子標的治療薬」、がん細胞が免疫機構から逃避している仕組みを阻害し、免疫細胞に対して抗腫瘍効果を働きかける「免疫チェックポイント阻害薬」などがありますが、薬物療法については、肺がんのタイプによって薬剤の効きやすさもことなるため、がん細胞の性質に応じた「個別化医療」が行われています。

肺がんの治療

 

分子標的治療薬

分子標的治療薬

がんは自ら新しい血管を形成(血管新生)し必要な栄養や酸素を獲得し成長しますが、これを阻害しがんの成長を妨げる薬剤を「血管新生阻害薬」といいます。血管新生を促進する物質として血管内皮増殖因子(VEGF)があり、この働きを阻害する分子標的治療薬としてベバシズマブやラムシルマブなどがあります。いずれも殺細胞性抗がん剤との併用で使用されています。特徴的な副作用のうち比較的多く認められるものに高血圧、蛋白尿、鼻出血、血痰などがあり、頻度は高くありませんが重大な副作用として喀血、脳出血、血栓塞栓症、消化管穿孔、創傷治癒遅延があります。

 また、がんは遺伝子の異常によって引き起こされますが、ある一つの遺伝子に異常が生ずることで発がんに強く傾くものがあります。このような遺伝子異常をもつ肺がんの多くは、これをターゲットとした分子標的薬が著効することがあります。現在、一般的に検査可能な遺伝子異常としてはEGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子があります。組織型としては圧倒的に肺腺がんに多く、日本人の肺腺がんのうちEGFR遺伝子変異は約45%1)、ALK融合遺伝子は約4-5%2)、ROS1融合遺伝子は約2%3)に認められるといわれております。

EGFR遺伝子変異陽性の肺がんでは、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブなどが用いられ、一般的な副作用としては皮膚障害、爪囲炎、下痢などがあり、まれではありますが重篤な副作用として薬剤性肺障害があります。これらの薬剤は約1年程度で多くの場合効かなくなりますが、この原因の一つに「T790M変異」があります。これは、EGFR遺伝子にT790M変異が新たに加わることにより、薬剤が変異EGFRに作用できなくなってしまうものであり、薬剤が無効となった場合の約50-60%に認められます。これに対して、新しい薬剤であるオシメルチニブの有効性が証明されていますが、現在では、T790M変異が陽性である場合にのみ使用可能となっております。T790M変異が発現しているか確認する方法としては、気管支鏡検査を行いがん細胞の採取を行う方法と血液検査があります。血液検査は負担が少ない検査ですが、感度の低さが問題視されています。

ALK融合遺伝子陽性の肺がんでは、クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブなどが使用可能であり、いずれも殺細胞性抗がん剤よりも良好な治療成績が得られています。副作用は薬剤によって若干異なりますが、比較的多いものとして、クリゾチニブとセリチニブでは悪心・嘔吐、下痢、視覚障害があり、アレクチニブでは味覚異常、便秘、発疹などがあります。

ROS1融合遺伝子陽性の肺がんでは、クリゾチニブの高い有効性が証明されており、初回治療において推奨されております。

遺伝子異常をターゲットにした分子標的治療薬が効かなくなった場合は、殺細胞性抗がん剤による治療が行われます。

 

免疫チェックポイント阻害薬

もともと免疫細胞にはがん細胞などの異常細胞を排除する機能がありますが、がん細胞には免疫機構から逃避する仕組みが存在します。その一つに「PD-1/PD-L1経路」があります。がん細胞を攻撃する免疫細胞の一つにT細胞があり、その表面にはPD-1という物質があります。がん細胞の表面にPD-L1という物質が発現していると、PD-1と結合し、T細胞に対して働きを抑制する信号を送ります。このようながん細胞の免疫逃避機構を抑制する薬剤として、PD-1に作用し抑制の信号が入らないようにする「抗PD-1抗体」というものがあり、現在ニボルマブとペムブロリズマブがあります。がん細胞のPD-L1発現は個々によって異なりますが、その陽性率が50%以上の場合はペムブロリズマブが初回治療から使用され、高い有効性が示されています。注意すべき副作用としては、間質性肺疾患、大腸炎・重度の下痢、重度の皮膚障害、神経障害、肝機能障害、内分泌障害、1型糖尿病、腎機能障害、膵炎、筋炎、横紋筋融解症、重症筋無力症、心筋炎、脳炎・髄膜炎、点滴時の過敏反応、ぶどう膜炎などがあります。免疫チェックポイント阻害剤が効かなくなった場合は、殺細胞性抗がん剤が使用されます。がん細胞のPD-L1発現率が50%未満の場合は、殺細胞性抗がん剤の治療が優先され、免疫チェックポイント阻害薬は2次治療以降の選択肢となります。

 

殺細胞性抗がん剤

進行期の肺がんにおいては、全身状態が良好であれば、殺細胞性抗がん剤を使用することによって生存期間が延長し、生活の質が向上することが多くの臨床試験で示されています。特にEGFR、ALK、ROS-1などの遺伝子に異常がなく、PD-L1の発現率が50%未満の非小細胞肺がんでは殺細胞性抗がん剤が1次治療として用いられます。

75歳未満の非小細胞肺がんでは、1次治療として、シスプラチンやカルボプラチンなどの「プラチナ製剤」と「第3世代以降の抗がん剤」の併用療法を行います。第3世代の抗がん剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ナブパクリタキセル(アルブミン懸濁型)などがあります。扁平上皮がん以外の非小細胞肺がんでは、これに加えてペメトレキセドが選択可能であり、さらには血管新生阻害薬のベバシズマブを加えた3剤併用療法も行われています。これらの治療が無効となった場合は、2次治療以降として免疫チェックポイント阻害薬、血管新生阻害薬であるラムシルマブとドセタキセルの併用療法、ドセタキセル単剤療法、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤単剤療法などが行われますが、扁平上皮がん以外の非小細胞肺がんでは、これに加えてペメトレキセドが選択可能であり、1次治療で使用されていない薬剤を選択して治療を行います。

75歳以上や体力の低下している非小細胞肺がんの場合では、副作用と効果のバランスの点から、第3世代抗がん剤の単剤にて治療を行うことが一般的です。

進展型の小細胞肺がんにおいては、70歳以下で全身状態が良好であればシスプラチンとイリノテカンの併用が推奨されておりますが、イリノテカンには下痢や間質性肺炎の副作用があるため、これらの毒性が懸念される場合や高齢者、全身状態が不良の場合では、シスプラチンもしくはカルボプラチンとエトポシドの併用療法が行われます。これが無効となった場合にも殺細胞性抗がん剤による治療が行われますが、確立したものはありません。

 

最後に

当院では、週1回、治療方針について呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科医の合同カンファレンスを行い協議・検討しております。また、安全に治療を行うため、使用する化学療法については、当院の化学療法委員会で認められたものを用いております。

 

引用

1)EGFR遺伝子変異の手引き 第3.05版

2)肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き

3)肺癌患者におけるROS1融合遺伝子検査の手引き

4)EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 2016年版